一磨×樹音 樹音視点
「はい、一磨の分」
お昼休みの楽屋、今日は早起きしちゃったから、なんとなくね。お昼を皆に差し入れてみた。
差し入れって…おにぎりなんだけど笑
皆わいわいと喜んで食べてくれてるから、とりあえずホッとしてぐるっと楽屋を見渡すと、窓際の机に一人。
ペンを片手に難しい顔して、ノートとにらめっこしてる一磨の姿が目に入った。
おにぎりの山から二つ手にとって、一磨のとこに向かう。
よほど、真剣なんだろう、樹音が近づいてるにに気づきもしない。
「一磨」
「ん?」
「休憩しない?」
「ああ、もう昼休みか」
「何書いてたの?」
「ああ、これ、漫才部のノート」
「もう終わったじゃん、漫才部」
「まあ、そうなんだけどさ、何となく…」
「…見てもいい?」
おにぎりを渡しながら見ると、快くいいよ、と返事が返ってきた。
「お、焼きタラコ♪」
「好きなんでしょ?」
「うん、好き」
ー…好き。
…ああ、まただ、最近の樹音は、どうかしてる。
一磨が”好き”って言ったのは焼きタラコなのに。
この間からおかしいよ、何だか気になる、一磨の何気ない一言、何気ない仕種。
最近収録で一緒になる事が多いからとか、中学生SPだの、セレ部だの…何か恋バナする機会が増えたからとか、色々思い当たる節はあるといえば、あるけれど。
それなら裕太だって、ずっと一緒だし。
何で…一磨の事がこんなに気になるんだろう。
「…なに?」
おにぎりを頬張りながら樹音の視線に疑問を浮かべる一磨。
「な、何でもない」
ちょっと動揺して、慌てて手元のノートに視線を移してごまかした。
小さな字で、ギッシリとセリフや注意事項が書き込まれたノート。
改めて、一磨と拓巳が、どんなに真剣にこの部活動に取り組んで来たのか解って、樹音は胸が熱くなった。
隣で美味しそうにおにぎりを頬張る一磨の横顔を、そんな事考えながら、そっと見つめてみる。
スッと通った鼻筋、大きな黒い瞳。
…黙ってれば、結構キレイな顔立ちしてるんだよね、一磨って。
いつの間にか、すっかり男の人って感じの横顔になっちゃって。
出会った頃は、可愛いおチビさんだったのにな。…ま、それは、お互い様か☆
あの頃は二人して、いっつも勇気の後ろくっつきまわしてたっけ…。
セレ部で、言っちゃった、樹音の理想のタイプ。
バスケやってて、ロングヘアで…
それって勇気センパイの事じゃない?て放送後に真っ先に指摘してきたのは一磨だった。
勇気、か。懐かしいな…なんて、一人で微笑んでみる。
「そーいえば、もうすぐバレンタインじゃん」
一磨の声に現実に引き戻される。
自分から振るか、その話題…と思いつつ。
無視するのも可哀想だし、一応乗ってあげる事にした。
「その前に一磨は誕生日だね」
「お、覚えてくれてたんだ、さすが樹音!」
「一応ね」
「一応…ね」
「…なによ」
「これも、一応?」
そう言って食べかけのおにぎりを指差す一磨。
かあっと頬が熱くなる。
「そっそうだよ、一応、自分の好きな具が入ってる方が嬉しいかな~って思っただけだから」
「ふ~ん…俺が焼きタラコ好きって覚えてくれたんだ、一応」
”一応”にやけに力を入れてニヤニヤしてる一磨。
なんか悔しい。樹音の気持ちを見透かされてるみたいで。
「あ、誕生日もだけどさ、バレンタインもよろしくね?」
ほら、まただ。
一磨は、一体どんなつもりで言ってるんだろう。
一磨の気持ちが見えないから、こっちも何も気づかないふりして返す。
「はあ?なんで樹音が」
「裕太から聞いたんだけどさ、樹里亜の手作りチョコ、美味しかったんだって?」
「…だから?」
「俺も食べたかったのに、トリュフチョコ…」
「なら、樹里亜に頼めば良いじゃん。言っとくけど、樹音は、おにぎりしか作れないんだから。無理無理」
「だよな~」
そう言って納得されるのもなんか悔しいな、なんて思っていたら。
「けど…俺は樹音のが欲しいな」
「へっ…」
「手作りじゃなくても良いからさ、チョコよろしくな!」
そう言って、樹音の頭を軽くポンポンっと叩いて微笑む一磨。
「おにぎりうまかった、ごちそうさま」
そうニカっと得意のスマイルを残して、一磨は楽屋を出て行ってしまった。
残された樹音は、暫く動けないでいた。
えっと…とにかく、頭の中を整理しよう。
今の一磨の言葉は、どういう意味?
ー…樹音のが欲しいな。
それは、友達として?それとも特別な存在として?
「もうっ!」
解らない、一磨の気持ちも自分の気持ちも。
何でこんなモヤモヤ、ドキドキするの?
ー…樹音のが欲しいな。
ああ、もう勝手にリフレインするなっ樹音!なんて自分で自分に突っ込みながら、体温の上がった頬を両手で押えて、ひとつの答えを導き出す。
「チョコ、あげてみようかな」
そうすれば、この胸のモヤモヤの答えが見つかるかもしれないから。
だけど、問題なのは…
「手作りチョコなんて無理に決まってるじゃん…」
思わず口に出して呟いた言葉に、思いがけず返事が返ってきた。
「…無理ちゃうで?」
「ほっ、帆乃香、いつからそこにっ!?」
「ごめんな、立ち聞きするつもりやなかったんやけど…」
申し訳なさそうな帆乃香の言葉に、思わず俯いてしまう。
何だか気まずい沈黙。
最初に口を開いたのは帆乃香だった。
「なあ、樹音ちゃん。チョコ一緒に作らへん?」
「えっ」
「悔しいやろ?一磨くん、見返してやろうや!」
「そりゃまあ…、でも、やっぱ樹音には無理だよ」
自信ないよ、料理なんて出来ないもん。失敗してまずいチョコあげるくらいなら、初めからやらない方がいいに決まってる。
「樹音ちゃん、諦めたらあかん、手作りチョコは、味やない、ハートで勝負なんやで!」
「帆乃香…」
「うちもあまり料理は得意やないけどな…頑張って作ったら、きっと、その気持ちは伝わると思うねん。だから、頑張ろ?」
まっすぐ真剣な帆乃香の視線。
…そっか、帆乃香にも想いを伝えたい人がいるんだね。
樹音も頑張ってみようかな、もしかしたら、こんなチャンス二度とないかもしれないから。
「…うん、そっか、そうだよね」
「ほな、決まりやな♪」
ホッとしたように笑う帆乃香、年下なのに、凄くしっかり者で優しい子。
大丈夫!こんな良い子、振るヤツなんてきっといないよ。
そう思いながら、笑顔を返す。
「じゃあさ、樹里亜に教えてもらおうよ、トリュフチョコ、」ほんっとに美味しかったんだから♪」
樹里亜も手作りするって言ってたもんね。
帆乃香も強力な助っ人登場に本当に嬉しそうだ。
樹音と二人じゃ、とんでもないことになりそうだもんね笑
「ほんまに?よっしゃ、善は急げ、や♪早速、樹里亜のとこ行こ!」
時計を見ると、休憩時間は後15分。
善は急げ!帆乃香の言葉通り、樹音達はフージャの楽屋へと急いだ。
NHKの廊下を並んで歩く。
ウキウキするようなドキドキするような…そして、何となく急ぎ足で。
でも、これだけは、言っておかなくちゃ。
「ね、帆乃香」
「なに?樹音ちゃん」
「…ありがとね」
そう言うと、帆乃香は、少し照れたように笑った。
「うち、何もしてへんで?」
ううん、迷っていた樹音の背中を押してくれたのは、帆乃香だったよ。
だから一緒に、ね?
「頑張ろう、ね!」
「…うん!」
まるいほっぺの幸せそうな帆乃香の笑顔に二人とも上手く行く気がして。
あたしたちはフージャの楽屋の扉を開けた。
※※※※※※※※※※※※
…きっと大丈夫。
気持ちを込めて作ったんだもん。
ロマンチックな告白なんて、今更恥ずかしいし…第一そんなの樹音らしくないじゃん?
だからね、精一杯の想いを、このチョコレートに詰め込んだんだ。
ナチュラルカラーのカゴに、グリーンの造花をあしらって、ブルーのペーパーを敷き詰めた中に、カラフルなカップに詰めたトリュフチョコを13個。
セレ部部長らしく、気合いたっぷり、愛情たっぷり…なんてね笑
ねえ、一磨?
誕生日も、バレンタインも…樹音は絶対忘れたりしないよ?
だって、一磨は、樹音にとってトクベツな人だって解ったから。
チョコレートを作りながら、ちゃんとちゃんとわかったんだから。
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